2007年8月22日水曜日

将太の寿司

寺沢大介の「将太の寿司(全27巻)」

寿司の名店「鳳寿司」で働く関口将太が、新人寿司コンクールに出場して勝ち進むストーリー。ライバルとの寿司勝負をメインとしながらも、要所要所で人間関係のドラマが挿入されてて泣けます。「笑いあり涙あり」ってやつです。

将太は若いのに人間ができてて、謙虚でおごらず、向上心を持って努力を続け、仲間を信じて最後まで諦めず、常に食べる人の立場に立って真心を込めて寿司を握ります。当ブログの読者様であれば、僕が将太を嫌いなのはおわかりいただけるであろう。しかし、主人公がそんな偽善者だからかどうか感動的なエピソードが多いです。将太とオカケンの過去とか、藤吉と由紀姉の過去とか、飛男の母の日の話とか、飛男と小学校の先生の話とか。

逆に笑えるのは、寿司勝負の審査員のリアクション。いちいち大げさに驚くのは料理漫画の定番とも言えますが。おいしいものを食べるとまゆ毛をぴくんと跳ね上げるジジイとか、反射的に「パァン」と手を叩いてしまう兄さんとか。ちなみにこの兄さんは「拍手(かしわで)のヤス」の異名をとります。「拍手のヤス」などと呼ばれるなんて、どう考えてもバカにされてるとしか思えないけど、大真面目に拍手を打っている人を目の前に言えないんでしょうか。「出るか? ヤスの拍手!」とリアクションを見守る観客は悪趣味だと思う。

その観客にしても、大会がどこで開催されても律儀に会場に駆けつけるとは、よっぽどひまなんだなこいつら、と、この漫画に突っ込みだすとキリがない。そのへんを総合すると、秀逸なギャグ漫画と言えますでしょうか。


賭博堕天録カイジ 和也編

賭博堕天録カイジ 和也編(週刊ヤングマガジンにて連載中)

「賭博堕天録」のラストで4億8千万円を手に入れたあと、和也に勝負を挑まれ「決戦だっ……!」と終わってた前作の続き。しかし、気になる勝負方法はまだ決まっておらず、いまのところ、カイジはまだ狂言回しの役割です。

というのも、とにかく話の進行が遅い! 和也の書いた小説を読むだけで一巻を消費してしまうなんて、福本先生ならではの展開でしょう。その小説のタイトルはずばり「愛よりも剣」。ものすごいネーミングだ。「くだらねーラブストーリーとは一線を画す!」と自ら豪語する自信作のようです。何となく和也とはいい友達になれそうな気がする。それにしても、小説を読みながら「ううっ……!」とか「えっ……!」とか律儀に驚いてあげてるカイジは何だかかわいい。

まだ始まったばかりだけど、カイジはこのシリーズで死んでしまうのではと予想してます。第一話でしっかりお墓も作られてたし、何より、こんなギャンブルジャンキーにハッピーエンドいらないでしょ。むしろ彼には死んでほしいぐらいです。結局のところ、僕は他人の不幸が好きなのだ。っと、何だか和也みたいなことを言ってしまったなぁ。


ノーマーク爆牌党

片山まさゆきのノーマーク爆牌党(全9巻)

「爆牌」を武器にする爆岡と、彼に勝負を挑む麻雀プロたちが勝負をするお話です。もう10年以上前の作品だけど、麻雀漫画の金字塔と呼べる名作だと思います個人的には。

爆牌とは、相手の不要牌を狙い打つこと。例えば、下家が「223」の牌姿で「2」が鳴ければ絶好のテンパイって場合、わざと「2」を鳴かせて余った「3」で討ち取るという打牌なのです。普通に考えるとあり得ないですが、そこは漫画の世界だからってことで。手牌を読み切れる天才・爆岡ならではの必殺技! くーっ、爆岡かっこいい!

彼は、初期と後期のキャラが違いすぎてて違和感ありまくりですが、どっちかと言えば初期が好きだったかな。登場時に、見ず知らずの女性の顔面を思いっきり殴って「とっびまーん」と叫びつつ去っていく爆岡かっこよすぎる。後期の寡黙な爆岡もいいけど、やっぱり彼の魅力はこのへんにあると思います。しかも容赦なくグーパンチを入れてますから。

名作だけに名言も多いです。八崎の「全然オッケー」や「リードは守るもんじゃなく広げるものだ」は有名ですね。茶柱の「麻雀に『まぁいいか』などという打牌はない」なんて、「まぁいいか」な毎日を過ごす僕にとって耳の痛いお言葉もあります。

本作の主人公は爆岡だと思いたいけど、「主人公に想いを寄せるヒロインが存在する」というお約束から見ると、鉄壁が主人公になってしまうのか。いちおう、鉄壁目線で爆岡がライバルとして描かれてるし、宝燈美ちゃんも鉄壁に気があるみたいなので、認めたくはないけど鉄壁が主人公なんでしょうね。結局は努力を重ねて爆岡に勝ったし。でも、鉄壁にはまったく魅力を感じません。やっぱり、最後に敗れてしまったとは言え、あくまで自分のスタイルを貫いた孤高の天才・爆岡が最高にかっこいい!


ナニワトモアレ

南勝久の「ナニワトモアレ(週刊ヤングマガジンで連載中)」

1990年代の大阪を舞台とした走り屋の漫画です。ヤンキー漫画というよりは暴走族漫画と言ったほうがいいかも。実社会のヤンキーは死ぬほど嫌いだけど、漫画のヤンキーだと楽しく読める。だからヤンキー漫画はけっこう好きで、ろくブル、カメレオン、ジゴロ次五郎、ビーバップ、特攻の拓あたりは今でも読んでで、最近だとこの「ナニトモ(ナニワトモアレの略)」の週刊連載はチェックしてます。

さて、本作の登場人物はいずれもDQNであらせられます。今どき「DQN」という言葉を使うのは不適切かもしれないけど、どうしてもほかにいい文言が思いつかない。暴行に喫煙に飲酒に強姦に道交法違反にとDQNのフルコースで笑えます。まあ、笑わせようとして描いてるわけじゃないとは思いますが。

一般人の三大栄養素は炭水化物とタンパク質と脂質ですが、DQNのそれは「クルマ」「オンナ」「ケンカ」であり、そういう話がメインとなっています。僕の嫌う要素がここまで詰まってるのになぜ楽しく読めてしまうのかは謎だ。何か理由があるのだろうか。あ、本作風に言うと「オモロかったらエエやんけボケェ~」ですかね。


特命係長・只野仁

柳沢きみおの「特命係長・只野仁」

大手広告代理店に勤める「只野仁」は、普段は仕事のできない窓際族だが、裏では会長の特命を受けて社内外のトラブルを解決するスーパーサラリーマン。そんな彼の活躍を描いたお話です。

オヤジ御用達の週刊誌「週刊現代」で連載されてたのもあってか、設定もストーリーもオヤジ受けしそうなものになってます。登場人物はもれなく、理不尽な上司や家のローンや子供の教育費や妻の小言に悩んでるベタなリーマン。「はああ……」とため息をつく姿は読者の共感を得やすいのでしょうか。そして、主人公である只野の特技はなんと「空手とセックス」であり、特命実行中は空手を駆使して相手を蹴散らし、夜は夜で若い女性と体だけの関係を持っているという、オヤジの憧れるオヤジとでも言うか「ステレオタイプ」って言葉が適切かな。今どきセックスに価値を感じてるのはオヤジだけだと思うのです。でもオヤジ受けはしそうな設定ですね。

それに、只野のポリシーは「どんな理由があっても男は女に手をあげてはならない」だそうで、女性に暴力を振るう男性を見ると容赦なく制裁を加えます。これもまたオヤジ受けしそうなキャラだよなあ。

僕はもちろん暴力は大嫌いで、いかなる理由があろうとも暴力を振るう人間は最低だと思ってます。だから、ことさら「女に手をあげる男」だけを否定するこの言い方には賛同できない。逆に「男に手をあげる女」も最低であるのだし「男に手をあげる男」も「女に手をあげる女」もまた最低だと思う。要するに暴力はすべて最低であって男女は関係ないのであり、「男も女も関係なく、人に手をあげる人が最低」と言いたいのですよ。であるからして「女に手をあげる男は最低」という言い回しはおかしい。と、こういう小理屈はまたオヤジの忌み嫌うところなんでしょうかね。って、さっきからオヤジをバカにしてる気がしてならないが、まあ否定はしません。はっきり言ってオヤジは嫌いだ。と、35歳のオヤジが熱く語ってみる。

おっと、何だか脱線した上に、漫画そのものの否定みたいになってしまった。ほかにも、登場する女性はなぜか只野に惚れるとか、只野も只野であっさり夜を共に過ごしてるとか、まだまだ突っ込みどころは多いけれども、それも本作への愛のなせるワザ。そう、これらのご都合主義なワンパターンさが本作の魅力なんです。いい意味で決して期待を裏切らない、吉本新喜劇的で面白い漫画だと思います。


キン肉マン

ゆでたまごのキン肉マン(週プレNEWSで連載中)

キン肉マン新シリーズが始まりました。キン肉星王位争奪戦を勝ち抜き、無事王位について連載が終わったのが1987年。本シリーズはその続きという位置づけで、じつに24年ぶりの復活。第38巻として発売されています。続編だった「キン肉マン2世」は黒歴史となるのかどうかはさておき、キン肉マンファンとしてこれ以上の喜びはありません。毎週月曜日の更新が楽しみだぜ~っ。

ストーリーは、正義、悪魔、完璧超人が平和調停を結んだところに、「完璧・無量大数軍(パーフェクト・ラージナンバーズ)」と名乗る完璧超人の集団が襲来し、調停の無効を主張して正義超人軍との全面対抗戦が始まるのであった……と思ったところに、なんと悪魔超人軍が参戦。バッファローマン率いる七人の悪魔超人が完璧超人に戦いを挑んでます。

中でもステカセキングの登場には萌えた。ファンならご存じの通り、彼は悪魔超人なのにお茶目で、対キン肉マン戦でもその茶目っ気を十分に発揮してましたよね。キン肉マンの好きな「エリーゼのために」を流して自分を指名させたり、悪魔のシンフォニーでKOしたと思いきや番組が落語に変わってたり、果ては超人大全集で三年前のキン肉マンを再生してしまったり。自分でセットしておいて「な…なんだこのけだるい倦怠感は…」とか「なんだこの弱さは…」とか戸惑うステカセはかわいい。そんな彼が、長い時を経て再びリングに上がったんです。萌えないわけがない。

で、今回のターボメン戦では、「すばらしいミュージックを聴かせてやるぜ~っ」と懐かしい台詞とともに現れて奮闘します。まさか超人大全集でゼブラを再生するだなんて誰が予想できたでしょうか。マッスルインフェルノを繰り出したシーンでは思わず叫んでしまったよ。ステカセかっこよすぎる。っと、勢い余ってステカセキングの話ばっかりになったわい。グ、グムーッ。

とにもかくにも、ファンにとっては嬉しい連載復活。僕もいい歳のオッサンになったけども、子供みたいに月曜日を楽しみにしてます。てなわけで、ファンのみなさまは必見! アデランスの中野さん風に言えば「女房を質に入れてでも見なアカンで!」だぜ~っ!


ジゴロ次五郎

加瀬あつしのジゴロ次五郎(全22巻)

車好きの高校生、石川次五郎が中古車店で出会ったS13シルビアは、じつは意思を持って走る伝説の妖車だった……というお話。次五郎とシルビアのコンビが、さまざまなライバルとの対決を経て成長していく様が描かれています。運とハッタリだけだった前作のヤザワとは違うところですね。

登場人物は車好きだけにほとんどヤンキーです。2ch風に言うとそのままDQNでしょうか。言うまでもなく僕はこういった類の方々が嫌いで、最近では「車好きの人」にすら拒否反応を示してしまうぐらいです。僕の勝手な偏見なんだろうけど、車好きの人って、車を改造して爆音出して走って、頭を汚い金髪に染めてて、くわえタバコで座席を極端に後ろに倒して運転して、夏は海や川へ出かけてバーベキューして、自分の携帯アドレスを「○○(彼女の名前)Love.ezweb.ne.jp」にしてて、早々と結婚して子供にDQNネームを付けるイメージがある。今どきそんなステレオタイプなDQNも少ないでしょうが、ようするに何を言いたいかと申しますと、そんな「車好きの人が嫌い」な自分でも普通に楽しく読めるのが本作なのです。さすが加瀬先生。

そう、「ジゴロ次五郎」は、僕の敬愛する加瀬先生の作品。作者のギャグは自分のツボにぴったりなうえ、言葉遊びを利かせたせりふ回しも秀逸で、テンポよく読ませてそして笑わせてくださいます。ちなみに、加瀬先生はデスノートならぬ「ゲスノート」というネタ帳に思いついた下ネタをストックしてるそうです。

おっと、本作の紹介からはずれました。作中では、次五郎の兄の石川九州男(くすお)が最強キャラとして描かれてます。理不尽かつバイオレンスな暴君ぶりがいい味を出してて、主人公である次五郎よりも存在感を放ってるかも。市長選の話はおもしろすぎて笑い死ぬかと思いました。あとは、カリーとジュンコのエピソードも好きだな。あれは泣ける。

作者は、新たに登場する人物のキレっぷりを描くのが上手です。加磨呂の岡田や赫愚夜姫の藤田、デビルアイの能力を持つ加納洋介など、やばいヤンキーのぶっとび具合を描かせたらうまいんだよねぇ。加瀬漫画風に言うと「キ、キレてやがる!」でしょうか。これは前作のカメレオンにも同じことが言えます。

それにしても、マガジンに連載してた「ゼロセン」が終わってしまい、加瀬先生の新作を読めなくなってるのが寂しい。というわけで、ネットカフェでジゴロ次五郎とカメレオンを再読する夏休み。何回読んでも飽きないおもしろさはさすがです。


カメレオン

加瀬あつしのカメレオン(全47巻)

僕の好きな漫画家、加瀬先生の代表作。1990年代の週刊少年マガジン黄金期を支えた名作です。ジャンルはヤンキー漫画かギャグ漫画か微妙だけど、ヤンキー自体がギャグみたいなものだからギャグ漫画でいいか。主人公のヤザワがハッタリと運の良さだけでカリスマヤンキーへ成り上がっていくサクセスストーリーです。

物語後期の受験編はいまひとつでしたが、初期から中期にかけての展開はおもしろすぎます。キレたヤンキーに出会う→ヤンキーがヤザワに興味を持つ→ヤザワ逃げようとする→追い詰められて保身のためにハッタリをかます→そこで考えられないウルトララッキーが!→ヤンキーがヤザワに心服して仲間に加わるという感じですかね。毎回ワンパターンなんだけど笑えます。

好きなキャラはやっぱりヤザワ。仲間を仲間とも思わない鬼畜ぶりには敬服します。あとは、「悪魔の中坊」と恐れられる冷血ヤンキー由来カオルも好きだな。あのクールさがたまりません。ほかには、相沢や椎名もけっこういい仕事してます。物語初期こそ恐怖のヤンキーだったものの、途中からすっかりギャグキャラになった二人の活躍なくして本作は成り立たないでしょう。相沢の性病ネタや椎名のスキンヘッド亀頭ネタは笑ったわぁ。

何より、加瀬先生お得意の言葉遊びが秀逸です。「死んだゾ オメー」「明日の朝刊載ったゾテメー!」「踊れオラァ!」「気持ちよくラリってんじゃねー!」ほか多数。こんなハイセンスなヤンキーいないとは思うけど。ヤザワの「ど不幸すぎる!」「カレの意志は固い!」「さ、酸素が足りねー!!」もいい味出してますね。本当に作者のせりふ回しは天才的だと思う。擬音も独特で、「げっひ~ん」「しぴぴぴぴ」「くさぷ~ん」など、それ単体でも笑える言い回しが満載です。日本語を極めるとこの境地に達するのだろうか。加瀬風に言うと「オモシレーぞオメー」ですかね。